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糖尿病網膜症は失明リスクあり?症状や進行過程についてわかりやすく解説

糖尿病網膜症は糖尿病の合併症で、視力低下などの症状が現れる眼の病気です。自覚症状がないまま進行することもあり、治療を受けずにいると失明するリスクがあります。そのため、糖尿病と診断されたら糖尿病の治療だけでなく、特に異常がない場合でも1年に1回は眼科で検診を受けたほうがよいでしょう。

この記事では、糖尿病網膜症の症状や進行過程、治療・予防方法を解説します。

 

糖尿病網膜症は失明リスクのある病気

糖尿病網膜症は糖尿病が原因で、網膜(眼の奥・眼底部にあり、光を感じる組織)に損傷が生じる病気です。網膜はカメラでいうとフィルムにあたり、眼に入った光は網膜で焦点を結びます。網膜に傷が付いた状態では像がきれいに映し出されず、はっきり見えなくなります。

糖尿病網膜症は症状が進行すると、出血や。自覚症状がないことが多いため、気付かないうちに視力低下が進行しているケースも見られます。

日本では糖尿病網膜症は「糖尿病腎症」「糖尿病神経症」とともに「糖尿病の三大合併症」と呼ばれています。糖尿病になった人がすべて糖尿病網膜症になるわけではありませんが、糖尿病を患っている期間が長いと発症頻度が上がるため、検診を受けることが大切です。

 

白内障との違い

糖尿病網膜症は、フィルムカメラに例えるとフィルムが傷んだ状態です。一方で、白内障はレンズが濁った状態に例えられます。レンズにあたる水晶体が加齢などで白く濁り、集めた光を眼底まで届けられなくなるのが白内障です。そのため光をまぶしく感じることなどが自覚症状として現れます。

また、白内障も糖尿病により引き起こされる場合もあります。老人性白内障(加齢性白内障)と異なり、若い年代でも発症する点が特徴です。老人性白内障は40~50代から発症するケースが多いのに対して、40代未満で白内障を発症した場合は糖尿病が原因である可能性があります。

 

糖尿病網膜症が引き起こす「血管新生緑内障」について

糖尿病網膜症が進行すると、「血管新生緑内障」を発症するケースもあります。血管新生とは、眼の特定部分に「新生血管」と呼ばれる新しい血管が作られることです。新生血管により、隅角(ぐうかく)と呼ばれる房水(ぼうすい:水晶体と角膜の間を満たす液体)の出口部分がふさがれ、房水が閉じ込められます。その結果、眼圧が高くなり緑内障を引き起こすものが血管新生緑内障です。

血管新生緑内障を発症すると、視神経が圧迫され徐々に視界が狭くなるほか、視力の低下が起こり、最終的には失明する可能性があるため、早期治療が大切です。

 

糖尿病網膜症の症状には3つの段階がある

糖尿病網膜症の症状には、「単純網膜症」「増殖前網膜症」「増殖網膜症」の3つの段階があります。それぞれの症状や特徴を詳しく説明します。

 

単純網膜症

糖尿病網膜症の初期に見られる単純網膜症は、網膜にある毛細血管が高血糖で壊れやすくなり、眼底の毛細血管から小さな点状出血や、少し大きめの斑状出血が見られる状態です。漏れた血液中のたんぱく質や脂質が網膜に沈着することもありますが、自覚症状はありません。そのため、検査をするまで単純網膜症に気付いていないケースが見られます。

なお、単純網膜症は視力には影響せず、血糖コントロールにより改善される場合もあります。

 

増殖前網膜症

進行が進んで中期になると、増殖前網膜症と呼ばれます。毛細血管の詰まりや軟性白斑というシミが多くなると、網膜中に酸素や栄養が届きにくくなります。静脈が腫れ毛細血管が不規則な形となり、神経も血液不足によってむくんだ状態です。増殖前網膜症の段階では、まだ新生血管は作られていません。自覚症状はないことが多く、視力にも影響はありません。

 

増殖網膜症

末期の増殖網膜症になると、網膜に新生血管が作られます。新生血管はもろいため出血しやすく、硝子体出血や増殖膜、網膜剥離などを引き起こします。新生血管が作られただけでは自覚症状はありませんが、硝子体出血や網膜剥離が起きた場合は視力が低下し、かすみ目や飛蚊症(蚊のような黒い点が飛んでいるように見える)、視野が狭くなるなどの症状が出るでしょう。この段階では自然に治ることが少なく、放置すると失明することがあるため、ただちに治療を受ける必要があります。

 

糖尿病網膜症の治療法

糖尿病網膜症の治療方法は、初期、中期、末期で異なります。それぞれの段階で効果的な治療方法を紹介します。

 

【初期】血糖コントロール

糖尿病網膜症は、糖尿病にならなければ発症しません。血糖コントロールが悪いと網膜症を発症しやすいため、糖尿病自体の治療と同じように血糖値を正常に保つことが重要です。

血糖コントロールには、食生活や運動習慣を正すことが効果的です。以下のように、生活習慣を改善しましょう。

  • 一日3食を、規則正しく食べる
  • アルコールや糖分、塩分の摂りすぎに注意する
  • 規則正しい生活を送る
  • 適度に運動する
  • 禁煙する

ただし、急激に血糖値を下げると一時的に糖尿病網膜症が悪化する可能性があるため、網膜症をすでに発症している方は医師と相談しながら取り組みましょう。

 

【中期】レーザー光凝固術

レーザー光凝固術(網膜光凝固術)は新生血管の発生を防ぐために、レーザーを眼底で焼く方法です。すでにある新生血管を固めることもできるため、新生血管を減らすこともできます。レーザー光凝固術は、中期に効果があるといわれている治療法です。

レーザー光凝固術は、一度受けたら終わりではなく、必要に応じて数回行ないます。施術中にまぶしさを感じる方はいますが、点眼麻酔をするため痛みはひどくありません。1回の治療で数十~数百個の新生血管を凝固させるのが一般的で、外来通院で治療できます。レーザー光凝固術で視力は回復しませんが、網膜症の進行を防ぐ効果が高く、失明しないために大切な治療です。

 

【末期】硝子体手術

硝子体手術は、レーザー光凝固術で効果が得られなかったケースや、硝子体出血、網膜剥離が起こった場合など重症な場合に行なう外科治療です。硝子体内の新生血管から漏れた血液を取り除き、出血の原因部分を電気で凝固し、はがれた網膜を元に戻して再出血や網膜剥離の再発を防ぎます。入院日数は、症状や施設などそれぞれのケースによって大きく異なるでしょう。特に症状が重くない場合は、日帰り手術も行なわれています。

黄斑(おうはん:網膜の真ん中)部に損傷がなく症状が軽い場合は、視力が改善することもありますが、重症になってから手術すると視力が改善しないこともあります。そのため、自覚症状がなくても糖尿病になった場合は、定期的に眼科検診やレーザー光凝固術を受けて網膜症を進行させないことが大切です。

 

糖尿病網膜症の治療方法

糖尿病網膜症の最善の予防方法は、血糖値をコントロールし、血圧を正常範囲に保つことです。初期症状の治療方法で説明しましたが、血糖値は生活習慣の見直しでコントロールできます。

高血圧は、網膜に高血圧性網膜症を引き起こす可能性があり、注意が必要です。また、高血圧が続くと血管を傷付けるため、糖尿病の場合は血管閉塞が増加して糖尿病網膜症をより悪化させるといわれています。

そのため、糖尿病と診断された方や高血圧の方は症状がなくても、眼科で精密眼底検査を受けるようにしてください。

 

糖尿病網膜症のセルフチェック方法

自分が糖尿病網膜症なのではないかと気になる方もいるでしょう。糖尿病網膜症のセルフチェック方法としては、次のような変化が挙げられます。

  • 新聞やテレビの文字が見えづらくなった
  • 視界の特定の部分だけ見えづらい
  • ゆがんで見える
  • 視界が狭い
  • 片目だけ弱く見えにくい
  • 色が識別しにくい
  • 眼に痛みがある、眼が赤い

以上のような症状が現れた場合には、速やかに受診しましょう。

 

まとめ

糖尿病を持病として抱える方は、合併症として糖尿病網膜症を発症する可能性があります。糖尿病網膜症は無症状で進行し、失明の可能性もある病気です。しかし、早期に発見できれば進行を防ぐことはできます。

糖尿病と診断された場合は、眼に違和感や症状がなくても、定期的に眼科検診を受けましょう。

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